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型絵染め -岡本隆志・岡本紘子-

まだ少し肌寒い今年の三月、神奈川県湯河原にある、岡本隆志さん、紘子さんご夫婦の工房へお邪魔しました。
予定よりも大幅に遅れてしまった私たちを、お二人は快く迎えて下さり、作品の事やお二人の馴れ初め、芹沢銈介先生の事など、遅くまで熱心にお話しして下さいました。
ご夫婦で染織作家。そして共に型絵染めを主とする作品。しかしお二人の作風はまるで異なります。
「年を重ねるごとに自由になっている感覚」
紘子さんが仰った言葉の通り、お二人の作品からは染織にありがちな堅苦しさや制約をまったく感じません。見ていて本当に心地よく素直に素晴らしいと思えるのです。

型絵染め

岡本紘子作「花 二月蝶入」

「型絵染め」という言葉は、1956年に芹沢銈介氏が人間国宝に認定された際、その他の型染めの技法と区別するために考案された名称です。技法的には沖縄の紅型とよく似ています。

岡本隆志さん、紘子さんをはじめ、作家と呼ばれる方達の作品は図案、型彫り、糊伏せ、彩色、地染めまで基本的に全て一人で行います。そのため分業の多い友禅や小紋染などとは違い、作家さんの個性や想い、感性が作品に強く表れるのです。

型紙と糊

岡本隆志作「幾何文Ⅱ」

図案を生地に写すための型紙。お二人の工房では和紙を張りわせた昔ながらの素材で、今でも型紙を制作されています。

「こういう素材なのでどうしても何反か染めると型が壊れてしまいます。その度に型紙は彫りなおします。手間ですけどね(笑)素材を変えようとは思いません。防染糊も今は出来合いの糊があるんですけど私たちは自分たちで作るんです。米ぬかともち米を混ぜて蒸して…そうやって習ったので今でもそれを続けているだけです(笑)」

芹沢銈介先生のこと

工房横のみかん畑から

お二人が師事された型絵染めの第一人者、人間国宝 芹沢銈介。先生はどんな方でしたか?そんな問いかけに、お二人は…

「厳しい方でしたよ。私たち弟子には(笑)よく覚えているのは、定期的行っていた作品の「試染」。下手でも作品が“面白い”時には厳しい先生がとても嬉しそうにほめて下さいました。あの笑顔は忘れられませんね。だけど、ヘタウマな作品は厳しく注意されました。『ひとつひとつを丁寧に』先生がよく仰っていた言葉は今でもよく思い出します。」

絞りと藍

岡本紘子作「染めた花の譜」国展出品作

型染のしっかりとした輪郭とは対照的な絞りの柔らかな白。紘子さんの作品の中には型絵染めの技法だけでなく、絞りと藍染めを用いた作品も。

「藍と言うのはとても不思議な染料です。染料として使うときも、いつ染めるかで色が変化するのですが、染まりあがった作品も、年数と共に次第に藍が枯れて、落ち着き、柔らかな色合いに変化していきます。“藍は生きている”と言いますが、本当にその通りだと思います。」

略歴

工房にて

岡本 隆志【おかもと たかし】
1943年、浜松の染物業の家に生まれる。1962年、芹沢銈介に入門。1964年、国展、日本民藝展ともに初入選。1968年独立し翌年同門だった紘子さんと結婚。1976年、湯河原に工房移転。国画会会員。

岡本 紘子【おかもと ひろこ】
1942年、東京に生まれる。女子美術短期大学生活美術科卒業後、芹沢銈介に入門。1969年、結婚。二女がある。国画会会員。