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伝統と向き合い、自分と向き合う -江戸小紋染め・浅野栄一-

江戸小紋。その魅力とルーツは武士の裃にあります。江戸時代、将軍家を筆頭に各藩は独自の定め柄を設け他所の藩と区別するためのシンボルマークとしました。町人文化の中、しだいに庶民の間にも広がりをみせ、より細かで緻密な柄ほど珍重され、もてはやされます。伊勢型を彫る「彫り師」と型染めを行う「染め師」。互いに競い合い高め合う職人達によって江戸小紋は発展してきました。

江戸小紋との出会い

工房にて

そんな江戸小紋と浅野栄一さんとの出会いは1947年、80年続く染物屋の三代目として生まれた事から始まります。

幼い頃より「染」という仕事をじかに感じながら育ち、16歳の頃より、父親から小紋染のてほどきを受け職人の道へ。その後一度実家を離れ修業の道へと進みます。

まずは東京の染屋へ。そこで更紗染を覚えます。その後は京都で引き染と言われる「染」と色の勉強を重ねました。実家に戻った浅野さんは再び父の許で江戸小紋染の技術を磨いてゆきます。そして31歳の時、初めて「縞」を染めること許されました。

縞と向き合う

染まり上がった縞柄と伊勢型紙

縞柄は江戸小紋のなかでもとりわけ別格とされます。

それは何よりも「型継」の難しさ。他の柄のように切れ目がなく、反物の端から端までまっすぐに型を継いでいかなくてはなりません。

縞柄には「万筋」「毛万筋」「玉縞」「二つ割縞」「微塵縞」など様々な名称がありますが、これはいずれも曲尺一寸(約3㎝)巾の縞の本数によって変わっていきます。もっとも細かい微塵縞になると3㎝幅に31本もの縞が通ります。

浅野さんは仰います。
「縞ほど単純な柄はありません。そしてその単純さが難しい。だけどそれが魅力なんです。細かい縞を型置きするときは呼吸を止めて型をおきます。だから途中で話しかけられても返事はできません(笑)そんなことを1反で約90回繰り返すんです。今ある縞型でもっとも細かいものが、*児玉博さん(故・人間国宝)から譲って頂いた微塵縞です。これ以上の型を彫ることが出来る人はもういません。だから今あるこの型が壊れたらもう染めることはできないんです。出来るだけ次の世代に伝えて行ければと思います。」

唐桟縞とは

工房にて

そして、もう一つ浅野さんを代表する技が「唐桟縞」です。

唐桟縞とは、通常の1色上げの江戸小紋とは異なり、2色以上の色を使って染め分けた縞柄の事です。この唐桟縞を染めることが出来るのは、全国で浅野さん唯一人。
「唐桟縞は染め上げた後、型継の斑を修正する『地直し』が難しいんです。2.3色の色すべてがうまく 治せる1色を見つけ出す。これが難しいですね。反物をじーっと見つめていると、ふっと頭にその色が浮かび上がるんです。」

近年これらの業績と技が認められ「現代の名工」「黄綬褒章」など大きな受賞が続いています。受賞の理由をお尋ねしてみると
「伝統を守り、人のやらない事、やりたくないような難しい仕事に挑戦した事が良かったのでは。また、型彫りの方々、問屋さん、そして家内など多くの人達の支えのおかげです。」と謙虚に仰られます。

最後に今後のお仕事への想いをお聞きしました。
「私は職人ですから、これでいいってところがない。百点はないんです。死ぬまで勉強ですね(笑)」

ただひたすらに、伝統と向き合い、自分と向き合う。
そうして生み出される作品は、とても清々しく、まっすぐに浅野さんの筋が通っています。

浅野栄一(あさのえいいち)略歴

1947年 茨城県生まれ。
    16歳の頃より父から小紋染の手ほどきを受け職人の道へ。各地の染工場で修業したのち、父の許へ戻り腕を磨く。
2006年 茨城県技能者賞受賞。
2007年 我が国唯一の唐桟縞染師として卓越技能士「現代の名工」認定。
2008年 黄綬褒章受章。



江戸小紋ができるまで

江戸小紋工程1-3

1 板場の準備をします。
 7メートル程の長板に適度な水分を与えます。
2 長板に生地を張り付けます。
 長板にはあらかじめ糊がしみこませてあり、生地目を真直ぐに張り付けられます。
3 糊置き
 型を手付けする工程です。型紙の上から防染糊を置いていきます。

 

江戸小紋工程4-6

4 色合わせ
 混ぜ合わせた染料で試験染めをします。
5 しごき染め
 糊置きした生地をしごき台に移し、しごき糊という染料で染めていきます。
6 蒸し
 染料を定着させるため、高温の蒸気で蒸します。

 

江戸小紋工程7-9

7 生地を洗います。
 防染糊としごき糊を落とすため、洗い場で水洗いします。
8 地直し
 手付けの小紋染には必ず型癖や型継ぎが現れます。それを一つ一つ修正します。
9 完成
 湯のし、検品をして完成です。